救急の日に考える ― 命を守るために、私たちができること
毎年9月9日は「救急の日」と定められています。
これは1982年に厚生労働省と消防庁が制定したもので、「9(きゅう)9(きゅう)」という語呂合わせからきています。救急医療や救急業務に対する正しい理解と認識を深め、国民一人ひとりがいざという時に適切に対応できるようにとの思いが込められています。
私たちの日常の中では、救急車や救急医療のことを意識する機会は多くありません。けれども突然の事故や病気は、誰の身にも起こり得ます。だからこそ、この「救急の日」をきっかけに、身近な命を守るためにできることを考えてみたいと思います。
救急車が出動する回数の増加
消防庁の統計によると、日本全国で救急車が出動する件数は年々増えています。令和5年にはおよそ750万件、実に一日あたり2万件以上もの救急出動がありました。これは過去最多です。
なぜ増えているのでしょうか。背景には高齢化社会があります。高齢者の人口が増えることで、転倒や体調不良などによる救急要請も増えているのです。また、新型コロナウイルスの影響で「少しでも体調に不安があると念のため呼ぶ」という行動が広がったことも要因の一つといわれています。
一方で、本来救急車を利用する必要がないケース、いわゆる「軽症搬送」も増えています。例えば「深夜に薬が切れたので病院へ行きたい」「虫刺されがかゆい」など、本来であれば翌日の受診で十分なケースでも救急車を呼んでしまうことがあります。これらが積み重なると、本当に救急を必要としている人への対応が遅れてしまう恐れがあります。
救急車を呼ぶべきか迷ったら
「救急車を呼んだ方がいいのかどうか分からない」――そんなときに役立つのが「#7119 救急安心センター」です。
全国の多くの地域で運用されており、24時間体制で看護師などの専門職が電話相談に応じてくれます。症状を伝えると「救急車を呼んだ方が良いのか」「自分で病院に行けるか」「翌日の受診でよいか」をアドバイスしてもらえます。
また、最近ではスマートフォンのアプリや自治体のウェブサイトでも「救急受診ガイド」として簡易的なチェックができる仕組みが広がっています。こうしたサービスを知っておくことは、自分や家族の命を守ることにつながります。
命を救う「市民の力」 ― 心肺蘇生とAED
救急の現場では、救急車が現場に到着するまでの「数分間」が大きなカギを握ります。心停止の場合、1分ごとに救命率は約10%ずつ下がるといわれています。つまり、救急隊が駆けつける前に、その場に居合わせた人が心肺蘇生やAEDを使えるかどうかで、命が助かる確率が大きく変わるのです。
心肺蘇生(CPR)は、「強く・速く・絶え間なく」胸を押すことが基本です。AEDは駅や公共施設、学校、コンビニなどにも設置されており、音声ガイドに従えば誰でも使用できます。「使ったことがないから不安」と思う方も多いですが、実際に使ってみると音声が丁寧に案内してくれるため、落ち着いて対応できる仕組みになっています。
地域や職場で開催されている救命講習に参加することは、自分の大切な人の命を守る力を身につける第一歩です。
救急と福祉 ― つながる支援の輪
救急の日を考えるとき、医療だけではなく福祉の視点も大切です。特に高齢者や障がいのある方が地域で暮らす中では、体調不良や転倒などが日常的なリスクになります。こうしたときに「すぐに119番」ではなく、普段から支援の仕組みや見守り体制が整っていれば、大事に至らないケースも多いのです。
例えば、地域の民生委員や福祉事業所、訪問介護、グループホームの職員などが日常的に関わることで、小さな変化に気づき、早めに医療へつなぐことができます。これは救急医療の負担を減らすと同時に、本人の生活の安定にもつながります。
また、孤立している方や支援を受けにくい環境にある方への支援体制をどう築くかも重要です。救急と福祉の連携は、今後ますます求められていくでしょう。
私たちにできる5つのこと
最後に、「救急の日」にあたり、日常生活の中で私たち一人ひとりができることを整理してみます。
①救急車を呼ぶ基準を知る
#7119や自治体の救急ガイドを確認しておく。
②応急手当を学ぶ
心肺蘇生やAEDの使い方を救命講習で学ぶ。
③健康管理を徹底する
体調の変化を放置せず、定期受診や生活習慣の改善に努める。
④地域のつながりを大切にする
高齢者や障がいのある方を見守り、声をかけ合う。
⑤救急隊への感謝を忘れない
日々命を守る最前線で活動している救急隊員に敬意を持つ。
まとめ
救急の日は、「命を守ること」について私たちが改めて考えるための日です。救急車を正しく使うこと、応急手当を学ぶこと、地域での支え合いを広げること――どれも難しいことではありません。
大切なのは、意識を持ち続けることです。
今日からできる小さな一歩が、明日の命を救う大きな力になるかもしれません。
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